SDGs
SDGsは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴールと169のターゲットから構成されており、「誰一人、取り残さない=leave no one behind」と誓っています。
平成29年版学習指導要領で初めて登場した前文には、教育の目標を達成するための学校の役割として「持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。」と記載されています。これは、「SDGsを達成するには、持続可能な社会づくりの担い手を創る人間を育てる教育であるESD(=Education for Sustainable Development)が根本にある」ことを意味しているのです。
過去に見られがちだった一斉画一型や技能中心の体育学習では、運動を好む児童とそうでない児童の二極化、外遊びをしない児童の増加傾向などの結果をもたらしました。昭和52年版学習指導要領改訂により「楽しい体育」となりましたが、それでもなお「人より速く走る、新しい技に挑戦し続ける、チームで練習してゲームに勝つ」などの卓越性や競争性ばかりがメインとして評価される体育学習が、日本中の学校で展開され続けてしまいました。原因は、戦後から続いていた「身体の教育」や「運動による教育」という考え方が払拭しきれなかったことにあります。運動が民主的人間形成の手段として利用され「より速く、より高く、より強く」を体育学習にも取り入れるべきと考えていた時代の名残でした。
体育では、昭和52年版の学習指導要領からSDGsと同じ考え方がすでに存在しており、「leave no one behind」の授業が展開されているべきであったと言えます。学習指導要領上では、それまでの「運動による教育」から「運動の教育」へ体育の概念が転換していました。「leave no one behind」の考え方は、誰もが楽しめる体育学習をどうすべきかということと深くかかわっています。運動を手段とするのではなく、運動することそのものを目的として楽しめるような資質・能力を身に付けていくようにするという考え方だったのです。
もちろん、競技スポーツとしての運動を楽しむこともあります。しかし、こと体育学習においては、運動を通して学ぶ中で豊かなスポーツライフを実現することが目標ですから、このSDGsの考えが体育の学習にも当たり前に、影響してくるのです。体育のSDGsは、今に始まったことではないのです。
競技スポーツとは異なる運動の考え方の代表である「体ほぐしの運動」は、平成元年度版の学習指導要領から組み込まれました。この運動は、心と体を一体として捉える、右肩上がりにばかり囚われない「leave no one behind」を保証しうるきっかけともなる唯一の内容で、すべての学年で取り上げることとなっています。
技能の評価をしない「体ほぐしの運動」は、ともすれば技能に重み付けをしがちであった体育学習を過去の遺物とし、ほかの運動に対しても自分の心と体に向き合えるように導く運動でもあります。体育の学習状況を技能が「できる」「できない」でしか評価できなかった指導者ほど「こんなの、体育じゃないよ。」と不満をぶちまけますが、それは指導者本人が時代遅れに気が付いていないということです。