わたしFAST、わたしSLOW
3年生になって初めて学ぶ跳び箱運動。学習指導要領解説には、開脚跳びや台上前転などの技が、例示されていますが、開脚跳びは、馬跳びや支持でまたぎ乗りの経験もあるので、イメージしやすいかもしれません。では、台上前転はどうでしょう。
2年生までの跳び箱遊びでは、台上前転と似たような感じの動きは、経験が無いかもしれません。跳び箱遊びの例示には、跳び箱の上で転がるような動きは例示されていないからです。そんな3年生に、「跳び箱の上で前転してみよう」と投げかけると、どのように思考するでしょうか。
まず、転がっているので跳んでいるイメージではないでしょう。そのため、「マットでなら前転をやったけど、跳び箱の上でって、どんな感じなんだろう?」と考えを巡らせることになります。
そして、マット運動での前転で身に付けた既存の知識を活用し、跳び箱のイメージや技の絵図などの新たな情報を加えることで課題を見出す糸口に辿り着きます。「たぶん、こんな感じなんじゃないかな」「このタイミングで踏み切るんじゃないかな」とある程度のアタリを直感的につけるでしょう。
このような意思決定の仕方を、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、「FAST思考」と呼びました。意思決定のほとんどは、学びの経験値を活用したこの「FAST思考」によるもので、こうして子供たちに「やってみよう」が生まれます。
さて、「FAST思考」に基づいてやってみた結果ですが、「あれ? イメージと全然、違うな~」「これ、絶対無理じゃん」となることはほとんどありません。「FAST思考」は、自分の直感に基づくため自分自身を否定しにくいのか、多くの場合、「やっぱり、考えたとおりだった」とうように「おおむね正しい」と自己評価してしまうからです。
それでも「考えたイメージと、ちょっと違うな」と気付くことができれば、「もうちょっとこんな感じに踏み切ればいいのかも」「次は、手の着き方をこうやってみよう」と学びを進めていくことができます。これが、自分自身を客観的に振り返るメタ認知を働かせた「SLOW思考」です。
「SLOW思考」は、カーネマン曰く怠け者なので、この「SLOW思考」を促すところに教師の出番がありそうです。子供たちは、「FAST思考」に基づいて直感的にやってみたことを「SLOW思考」によって見つめ直しながら、学習課題解決に向けて学びを深めていくようです。