準備運動では、何を学ぶのか
体育科のすべての授業で必ず行うほうが望ましいとされる準備運動には、大きく分けて3つの「高める」ねらいがあります。
① 体温を上げ、運動の能率を高める。
リズム遊びや鬼遊びなどを準備運動として取り入れていくこともOKです。楽しい雰囲気の中で子供たちの心と体のスイッチをONにします。中休みや昼休みに学級で鬼ごっこをした直後の授業であれば、すでに十分に体温も心拍数も上がったと考えられるので、フルコースでの準備運動は、全く必要ありません。逆に、冬場など子供の体が冷えてしまっているときには、入念に準備運動をすることが大事になります。
② けがの防止のため、可動性を高める。
授業で行う主運動で特によく動かす部位(関節や筋肉)を補っておきます。マット運動の授業であれば、着手する動きが必ずあるので、「動物歩き」や「かえるの足うち」など予備的な運動や運動遊びを取り入れてもOKです。係の子供に準備運動を任せる場合でも、その状況を必ずよく見て教師が補っておくことも必要になる場合があります。子供が準備運動をしているすきに、学習の掲示物や工程のライン引きなどの場の準備をすることは、ありえません。さもないと、万一けがをしたときに後から苦情が来る可能性があるからです。
③ 運動することへの気持ちを高める。
これから運動することへの心の準備を行い、精神的に集中できるようにします。各学年で指導する「体ほぐしの運動」の要素や運動遊びを取り入れてもOKです。音楽を流すなどリラックスできる雰囲気の中で行うと楽しさがアップされるのでオススメです。チームや学習グループが決まっている場合などには、子供たちが自分たちで輪になって準備運動を始めていることもあります。準備運動の内容に注視しながら、「さあ、今日は、〇〇チームに勝つぞ~!」という学びに向かう力の表出を形成的に評価し、主体的な学びを認めていきます。
体育の準備運動では、ラジオ体操や部活動やスポーツクラブのような「1・2・3・4、ゴー、ロク、シチ、ハチ」という号令による体操は、やめた方がいいです。何のために準備運動をしているのか指導者も子供も分かっていません。指導者が準備運動を進める場合は、準備運動の行い方を指示する必要があるため、しゃべれなくなるホイッスルは使わず、リズム太鼓や音楽を活用していきます。
よく、5時間めの授業研究会などで、きちんと「体育座り」をして参観者を待っているという、おりこうな子供たちに出会います。しかし、ここに示したそれぞれの「高める」ねらいは、昼休みに自分たちだけが独占できる校庭で思いっきり遊んだ後なので、とっくに達成しているケースがほとんどです。おりこうな姿勢を参観者に見せる必要はありません。
主体的な学びを保証する授業改善を図るのであれば、「チャイムが鳴ったら、始めよう。」と指導者に言われなくても学びに向かう子供を育成したいです。「今日の学習内容を考えたときどのようなことに気を付けて準備運動をするのか。」を子供たち自身が考えて、準備運動から主体的な学びがスタートできれば、それが最も望ましいのではないでしょうか。