おんぶ その不安定さを楽しめる能力
おんぶ。この経験を語るチャンスは、なかなかありません。一人の人がもう一人を背中に乗せるおんぶは、子供のころの思い出でもあります。
人類の祖先でもあるサルにも、おんぶのような行動は見られます。しかし、人間のおんぶと決定的に違うところがあります。それは、乗っているほうだけが必死にしがみついているというところです。人間だけが、おんぶをしてあげている側が両手を後ろに回して乗っかれるように配慮しています。サルのおんぶは、乗っかっている相手を支えようとしていません。
おんぶをしているときには、手がふさがっているので不便です。そこで、両手を使いたい時のために、補助具としておぶい紐も発明されました。その後、ベビーカーが外国から入ってきたのを機に、おんぶという行為は、親子関係のなかでめっきり減りました。
こうして赤ちゃんは、姿勢のバランスを保つためにちょっと力を入れなくてはならない不安定な状況の感じを経験する機会が少なくなりました。以前の赤ちゃんは、親に抱っこされたり背負われてたりして移動していました。常に脳が揺さぶられていたので感覚統合には大いに役に立ったはずです。
赤ちゃんとしても、しっかり親に掴まっていなければ落っこちてしまうのではないかと不安を感じながら、知らず知らずのうちに微妙な動きや力加減の調節をしていたに違いありません。もちろん、ベビーカーに乗っていたときのことを覚えていないのと同じで、「おんぶされてたとき、背中から落ちないようにするの大変だったよな~。」と思い出話を言える人もいないはずです。
なぜなら、脳が揺れを感じる不安定な状況という課題を解決するためにいろいろ試してバランスをとったことは、脳と身体の協調作用による無意識の行動だからです。この経験が浅い場合、運動感覚があまり磨かれていないため感覚統合がされにくく、新しい動きを身に付けることが困難になる可能性があると言えます。