厚底シューズに見る「速く走る」への想い
日本の陸上界では、金栗四三さん以来の流れで、「マラソン選手が履いているシューズは薄底」という固定観念がすっかりついていました。
薄底は、接地感を高めて体の機能を発揮しやすい構造になっているため、半面疲れます。そこを「疲れないように選手を鍛える」という精神論がスポーツに対する過去の代表的な発想でした。薄底がメインだった時代には、「厚底はブレるし、重いからダメ」としか考えられておらず、「薄ければ薄いほどいい」という定説が根強くあったため、「薄くて軽いのに反発力がある」シューズの開発が進められました。
しかし、データからはじき出された理想の走り方を可能にするシューズは、なるべく前傾姿勢にして平地でも坂道を下っているような感じに走れるような角度を保てるようなものです。レース終盤でも足に疲れが残らない十分なクッション性を持たせた軽いものになりつつあります。「薄く軽く」というそれまでの常識をいったん全て疑って、新しい技術によって生み出された厚底シューズ。長年、「厚いのはダメ」と言ってきたその口を見事に塞いだのです。
1960年のローマオリンピック。エチオピアのアベベ・ビキラ選手は、自分が得意だった裸足でマラソンを走り、優勝しました。子供の頃から裸足で野山を駆け回って遊び、重い荷物を持って家の仕事を手伝っていたため足の裏の皮が厚くなっていたアベベ選手。シューズを履いて練習をしたこともありましたが、しっくりこなかったとのこと。4年後の東京オリンピックでアベベ選手は、薄底のシューズを履いて史上初のマラソン2連覇を達成しました。
運動ができるようになる魔法のシューズは無いかもしれませんが、どのシューズが運動しやすいかは、人それぞれです。学校の体育館では、シューズが滑って困っている子供をよく見かけます。