評価規準、どこまで必要か
運動領域の技能の評価は、実際の活動場面における動きの中で行われます。そのため、まったく同じ状況を複数回観察できるとは限りません。1回ごとに違う動きになることもあるからです。
そこで、適切に評価するために観点ごとに評価規準を作成します。それに基づく「おおむね満足できる」と判断できる「子供の具体的な学習状況」をある程度想定しておくことで、適切な指導につなげていかなくてはなりません。
ところで、これら、評価規準ですが、どこまで必要なのでしょうか。
たとえば、居酒屋の従業員を評価する場合で考えてみます。居酒屋の従業員が行う活動のうち、「客から注文を受けたドリンクを運ぶことができる」と1つの評価規準を設定した場合、「十分満足できる」活動状況とは、どのようなものでしょうか。
実際に居酒屋に出向いて、そのときになって確認することもできますが、それでは評価規準を設定しないまま授業をすることと同じことなるので、居酒屋に行く前にある程度、学びの状況を想定しておかなくてなりません。
さて、ここでは、「客から注文を受けたドリンクを運ぶことができる」質の高さが「十分満足できる」状況かどうかを評価することになります。ですから、元気よくあいさつができたり笑顔がステキだったりする従業員の状況は、関係ありません。それが事実であっても別の評価規準によって評価していることになるからです。「客から注文を受けたドリンクを運ぶことができる」かどうかは、あいさつや笑顔を抜きにして評価されなくてはならないのです。
「客から注文を受けたドリンクを運ぶことができる」質の高さは、前提として「注文を間違えない」ことを暗に評価規準として設定していることとなります。したがって、注文を受けた従業員本人によって注文していないドリンクが運ばれてきたときは、まったく目標に達していないことになるので「C」と評価されます。もちろん、オーダーを伝えるのを失念して、「ドリンク、まだかな~」などと客から聞かれるようでは、「運ぶことができる」質が低いこととなるので、「C」でしょう。
では、「A」は、どのような状況かというと、「運ぶことができる」質が、「早く」「こぼさず」「同時に」などが「いつでも」「確実に」できる状況と考えられます。「いつでも」そのような状況で「客から注文を受けたドリンクを運ぶことができる」従業員なら「十分満足できる」と判断することができて、次の注文もこの従業員に対してする可能性が高くなるかもしれません。
一方、元気のいいあいさつもなく笑顔も見せないような無愛想さがあっても「運ぶことができる」従業員はいます。たしかに、注文通りにドリンクを運んでくれますが、「もう、あいつに、頼むの、やめよう」と、その従業員に次のオーダーをしないようにしてしまうこともあります。それは、「運ぶことができる」以外の違う評価規準によって、その従業員を「努力を要する」と評価したからで、そのことをもって、その従業員が総合的に判断されてしまった結果と考えられます。