覚えていますか? ベビーカーの乗り心地

子供のからだ技能,発達,身体

「赤ん坊の頃のベビーカー。あの乗り心地は、最高だったな~。」と思い出せる人は、あまりいないでしょうね。

最近の子供の移動手段として、ベビーカー多くなったような気がします。街中で見かけることも多いベビーカーですが、「この子、一人で歩けるんじゃないか?」と思えるような幼児でもベビーカーの中に収まったままです。ベビーカーの中でじっと座っていれば、なぜかやや小さめに作られている前輪が歩道の段差に引っ掛かっととき「ガタン!」とびっくりする以外、ベビーカーの走行はほぼ安定しているので、のんきにしていられます。スマホだって、スイスイってなもんです。

一昔前に「乳母車」と呼ばれていたころよりベビーカーのフレームは太くカッコよくなり、少々体重が重たい子供が乗っても大丈夫なように作られているものも売られています。昨今、バリアフリー社会のため、街中の多くの段差が改善されるようになっています。そのため、姿勢のバランスを保つために赤ちゃん自身がちょっと力を加減しなくてはならないような不安定な状況をほとんど感じることなく、ベビーカーの中で子供は安心して過ごすことができています。

抱っこされ背負われて移動していた時代の赤ちゃんは、知らずのうちに感覚統合が促進されていました。不安定な状況を回避するためにいろいろ試してバランスをとった経験は、脳と身体の協調作用による無意識の行動だったはずです。赤ちゃんとしても、しっかり親に掴まっていなければ落っこちてしまうのではないかと不安を感じながら、微妙な動きや力加減の調節をしていたに違いありません。スマホをいじってなんか、いられない状況に置かれているのです。

スマホいじりはともかくとして、バランスをとる苦労を経験することが少ないベビーカー。これに乗る機会と時間が増えてしまえば、磨かれるはずだった運動感覚も身に付くはずだった運動技能も、どこかに置き忘れてきてしまうことになります。この行動の経験が浅い場合、動きづくりのもととなる運動感覚があまり磨かれていないまま小学校に入学してくる可能性があります。

赤ちゃんは、頭部が相対的に大きいため重心が高く、立ち上がるには都合の悪い形態的特徴があります。うまく立てずにぺたんと尻餅をついてしまいますが、そんなときでもいつも笑顔です。不安定な状況を不快と感じておらず、むしろ、その状況を楽しんでいるかのように見えます。

人間は、アンバランスを楽しむことが好きな動物です。電車内でつり革や保護棒につかまらずにバランスよく立ち続けられるかを競い合ってみたことはありませんか? ハイキングに行ったときに横倒しになっている丸太を見付けると誘発されて乗っかったり渡ってみたくなったりもしますが、それらとルーツは同じですね。

なお、ベビーカーに黙って乗ってればいいのに抱っこをせがんでくるケースがあります。それを考えると、赤ちゃんは、ベビーカーでは得られない揺れ心地を抱っこされることによって楽しめることを知っているのではないかと思わざるを得ません。適度に揺れていることで、ママのおなかの中にいたときの小刻みでリズミカルな揺れと同じような感覚が呼び戻されているように思えます。だから、抱っこされると安心してすぐにスヤスヤと眠ってしまうのでしょう。

ヒントは、週2回(月・金)アップロードされます。(令和4年4月1日現在)

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