全集中の呼吸
ボールを打つインパクトや「Ready go!」の合図による立ち合いなど、人は、ここぞという場面で大きな力を必要とするときに、無意識に息を「フッ」と強くはいたり「ウッ」と止めたりします。こうした呼吸法によって、高いパフォーマンスが発揮されることが分かっているからです。
実際、少年・竃門炭治郎が「全集中の呼吸」を習得する前の修行で、鱗滝左近次から「息止め」を教わったとき、「腹に力が入っていない。」と怒られます。「身体能力が高く、傷などもたちどころに治る、斬り落とされた肉も繋がり、手足を新たに生やすことも可能」な身体能力を持った存在である鬼。そのため、鬼殺隊の面々は、「全集中の呼吸」をマスターし、こうした鬼の身体能力に匹敵するだけのパフォーマンスが発揮できるようにしていなければならないのです。
人が筋肉を動かすためには、ATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる高エネルギー性の化合物が利用されます。しかし、筋内に貯蔵されているATPの量はごく限られているため、運動を続けるにはATPを作らなければなりません。ジャンプやかけっこなど、短時間の運動なら新たなATPを作らずに筋肉のエネルギーを生み出せますが、持久走や鬼殺隊の動きのように激しい運動を持続するときには、酸素から作られるエネルギーがより多く必要になります。
したがって、鬼と長時間戦うため、独特の呼吸法で多くの酸素を取り込んでエネルギーを生み続けるという「全集中の呼吸」は、ATPを生み出すという意味では、ある運動種目のスポーツ・パフォーマンスとしても理にかなっていると言えるのです。