「へ~んしん!」と言った時から人間の子供に戻さない
変身して遊ぶことは人間の本能であるといわれています。他の動物の行動には変身願望は見られません。人間は変身することを楽しめる動物なのです。
ヒーローごっこでは、すべての子供が正義の味方を演じるのでどこにも悪役がいません。しかし、それでも子供たちの中では遊びとして成立しています。そこには、「悪をやっつける」ことを目的とすることは無く、自分が正義の味方に変身することそのものを楽しんでいるからです。同じ正義の味方が何人いてもOKです。
ヒーローになって必殺技を出すときには、「プシューッ!」などの擬音(オノマトペ)を出すのも自然発生的な感覚です。誰もがヒーローになることができるので、好きな時に好きな必殺技を繰り出すことができます。必殺技の使い過ぎによるパワーダウンは、都合のいことに起こらないようになっています。
子供たちの想像上の目に見えない悪を駆逐したあとは、満足げな表情を見せるのですが、いつの間にか悪が復活するなどということが、日常的にあり得ます。一度やっつけたからといって、悪は繰り返し襲ってくることになっているので、ヒーローごっこはある意味、無限の戦いともなりますが、お昼かおやつの時間になると、自動的に勝利の瞬間が訪れます。正義は必ず勝つのです。
変身すること、すなわち「模倣」は、フランスの哲学者ロジェ・カイヨワ(Roger Caillois)が分類した遊びの4要素のうちの一つで、子供が運動に向かう原動力を説明しうる重要な手がかりとなるばかりでなく、運動の面白さを説明する基盤ともなります。
1・2年生が、表現遊びの学習で動物たちに変身するときには、動きや様子に特徴のあるゾウやチーター、わし、へびなどを提示します。ゾウならば重量感のあるゆっくりとした動きの感じを表すオノマトペ「のっしのっし」を子供から引き出し、初めは教師のリードで「のっしのっし」の動きの感じを踊っていきます。ゾウの感じがイメージできれば、あとは「水たまりを見付けた!背中に水をかけよう!」などの短い話をゾウになりきって即興的に踊っていくことにつなげます。
このような「動物ランド」では、子供が動物に変身したままその世界にどっぷりと浸れるよう、なるべく「人間の子供」に戻さないようにしておかなくてはなりません。したがって、変身タイムで動物に変身し切っていないような子供がいたら、すかさず「大変だ! 人間の子供がいるっ!」と声掛けしましょう。